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2012年05月09日

おひとりさまの最期

少し前、「孤独死」「孤立死」が連日ニュースになっていたことがありました。

その一方、独居の方の在宅での看取りも各地で行われています。
私たちのクリニックでも何人か、「おひとりさま」の方の最期にお付き合いしています。

2月中旬、鮮やかなピンクの緋寒桜が満開のころでした。

昔馴染みのヘルパーからの依頼で、初めて訪問したおひとりさまのオバは79歳。シマには身寄りのない方でした。夫に先立たれた後も、シマに骨を埋めるつもりで、人形作り教室や婦人会などで活発に過ごされてきた方でした。

最初の訪問は、依頼のあった翌日、病院から退院して1週間目でした。自ら作られたというひな人形などがたくさんある家でした。

肝がんの進行による右わき腹の痛みで身動きがとれず、腹水でおなかまわりは120cm以上ありました。また、肝機能が非常に悪化していたため、つじつまの合わない話やふるえがある状態でした。

本人の希望をうかがいながら治療を調整して、一日一日と、疼痛や便通が改善されていきました。

「満足して死にたいからね。今したいのはユムグチ。」
「体調が良くなったら、岩盤浴に行ったり、焼肉を食べたりしたい。」

といったことが当初からのご希望でした。

体調や意識が良くなってくると、友人も遊びに来るようになり、訪問でも楽しそうに昔話をされるようになりました。

ある日、「岩盤浴はお好み焼きのようなもの、やっぱりお風呂がいい。」と希望され、訪問看護でシャワー浴を行いました。
湯上りに長く禁止されていた缶ビールを飲み、久しぶりの化粧もして、ほころぶような笑顔で写真も撮られました。
このころ、体調が良くなったお礼にとお気に入りのひな人形をいただきました。

その後、下血がみられるようになりましたが、入院は希望されず、最後までここで過ごしたいという希望を伺いました。
ヘルパーさんたちにも、大量の吐血や下血がいつ起きてもおかしくないことや、これらが最期に直結することなどをお話ししました。

少し下血がおさまり体調もよかったとき、ヘルパーに

「焼肉が食べたい。無理なら匂いだけでもいい。」

と言い出し、ヘルパーの付き添いで知り合いの焼肉屋に行かれました。ほんの少ししか食べられなかったものの、大変喜ばれたとのことでした。

その翌日、ひな祭りの朝でした。

一番頼りにしていたヘルパーに、「起こして」と頼んだ後、徐々に呼吸が弱くなってきました。

ヘルパーは、あわてて私たちクリニックに連絡しました。

間もなく、気になって予定より早く出ていた看護師が到着しました。

そして、ヘルパーの腕の中で、「○○ちゃん」とヘルパーの名前を呼び、看護師に手を取られながら、穏やかに最期を迎えられました。
ベッドのそばでは手作りのひな人形が見守っていました。


「生きている間に、そのひとの住み家でこそできること」を支えることは私たちの重要な任務です。

在宅でいろいろな方々と向き合っていると、本来、ひとは最期の時と状況は選べるに違いないという気がします。
私達が最期までお付き合いした「おひとりさま」は一人残らず信頼できる人に囲まれて、感謝と満足に包まれた最期の時を迎えられています。
それは、その人自身が最期の瞬間を選んでいるからに違いないと感じてなりません。


毎年緋寒桜のころ、私たちのクリニックには、オバから頂戴したひな人形が、オバの思いとともに飾られることでしょう。



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